暑い夏の夜には

仲間たちをビッグサイトに残して1人帰福です。ホンダの愛車で空港から我が団地に到着したのは7時も過ぎていました。

明日から又出張で今度は上海です。髪が伸びて何ともスッキリしません。そうです今日は散髪の話です。

日常で頑固に変わらないのが散髪でしょう。誰しも散髪の物語すれば一冊の本が出来上がりますね。何しろ月に一度の散髪だけは巷に溢れる品物みたいには変えられないのです。

だがこんな時間に「花花」が店を開けてるはずがありません。6時半にはたった1人の店員鈴木君は帰宅します。半分諦めて電話してみたらマスター「いいよ。店閉めて書き物してるから開けよう」それでUターンして店に飛び込んだのは7時半でした。

ここでの散髪は摘む方も摘まれる方も慣れたもので15分とかかりません。客の誰しもこの散髪の間の他愛もない会話が店を変えられない訳の一つでしょうか。

「店閉めとったのにゴメン。何しろ明日からの出張、むさ苦しくてやりきれん」「いいよ。暇で絵を描いとっただけやから」「ふ~ん。相変わらず下手な絵描いとるの?」「始めて5年になる。それが人に勧められて県展なんかに出したらみんな入選してしまうんよ」「水彩の風景画やったよね」「今は油絵で仏像画ばっかり」「仏像画ならワケありだから審査員も簡単に落とせんかもしれんな。どうして仏像画なんか描き始めたの?」「宝満山のカマド神社に行って観音様描いたら自分でも上手く描けたの。それで他人に見せたくなって店のお客の1人に電話して見せに行ったの」ここまでの話は実のところバカバカしくて調子だけ合わせていたのです。

この後話が怪しくなってきて思わず背すじを伸ばしました。その散髪のお客の旦那、マスターの絵を見るなり泣き出してしまったという。観音様の顔がつい最近亡くした妻にそっくりだと言うのです。勿論マスターはその奥さんに会った事もないし亡くなったことも知りませんでした。それで哀れになって旦那に絵を呉れてやったら毎日大切に拝んでいるそうです。人伝に話を聞いた人に頼まれて仏像画を描いては上げること数十枚になったらしい。

絵心ある中洲には「下手な絵を描いて貰って飾る心境」が理解できません。ところが話に乗ってきたマスター、まだ客の髪をつみ終わっていないのに僅か2脚の散髪椅子の小さな店に奥から大きなキャンバスを次々と5枚も運び入れて来ました。今描いているのは3尺X6尺2枚のキャンバスに牛と岩盤に乗った2体の仁王像がお数珠で繋がれている様で更に3枚描いて都合5枚の屏風仕立てになるそうです。どの仏像も巧みな陰影の中で生身の人間に代わっているようです。勧められて今度は日展に出すらしい。信じられん。身近にこんな親爺がいるとはねえ。

ついでに写真帳の中の例の観音様の絵を見せて貰いました。淡いオレンジとピンクの絵模様の中の観音様は福よかな微笑みを湛えたいいお顔です。

どうも何かが中洲にこんな絵を見せるために時空を設定したのでしょうか。妻を亡くして悲嘆に暮れる亭主にその妻が観音像を描かせて届けさせたように。

暑い夏には怪談が付き物。西鉄朝倉街道駅から歩けば10分位。店の名前は「花花」です。

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