ケミホタルの話(その16)

ケミホタルの生産が終わり10名程の近所のパートさんが帰宅した後のアパート工場です。

 「変な奴」藤本が両手を左右に伸縮させて部屋をうろつきます。その仕草「俺は考えているだ」と見せんばかりでイヤミでした。彼は日大の化学を出て就職するが1年程で会社を辞めて弁理士を目指す受験浪人、30過ぎて独身、かなり深刻な人生にハマろうとしておりました。

行く先ヤバイ、弁理士資格取得も難しい、嫁さんも貰えんと考えて士郎に赤ひょうたんで仲間入りを頼んで来た男です。釣りが上手く指先が器用です。特許も書けるしアパート工場で発光体のテストや生産現場で表す特殊な才能に士郎は藤本に一目置くようになっております。

そして「寡黙の男」土海を見やると畳を覆うブルーシートに座り込んで長いことカレンダーの裏面に回路図を書き込んでいます。彼は本当に喋らん男で士郎より7歳年上S製作所で営業主任をやっております。工業高校の電気系を出て一流企業に奉職したわけだがここは典型的な学歴偏重の会社、高卒ということで出世もさせてもらえません。40過ぎて部下の付かない主任でした。元々寡黙な青年、社会で要領良くは振舞えません。機械大好き猟官活動などまっぴらの仕事人でした。

有田のF社は彼の担当でそれで栗本と知り合ったのです。九電も彼の担当でしたが信義に厚くそれに滅法メカに強いのでお客の信任が大きいだろうと士郎は判断しました。次第にこの男の生き方に強く引かれるようになったのです。彼の僅かな話を手繰ると機械いじり大好き少年で目覚まし時計や簡単な電気製品の修理を引き受けては村人に喜ばれていたことや風貌や物腰からソニーの創業者井深大に近い人生回路の持ち主だろうと思います。

いつかも九電に収めた高価な化学分析装置が故障したのを遠賀のアパート工場に持ち込み徹夜で修理しておりました。「福岡支店では誰も直せん」ポツリそう漏らすのを聴くとチャラチャラした有名大学出身の同僚社員達へのライバル意識も相当なものだと感じました。

時折見せる鋭い眼差しが胸の内に秘める強いものを感じさせます。結局この先の危機で土海とは長らく袂を分かつ事になりますが彼の生き様戦い様を後ほど皆様にじっくり物語しましょう。

 

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