ケミホタルの話(その17)

さて土海は棟方志功が「ねぷた絵」を彫っているような格好でずっと回路図らしきものを書き続けてはリレーをいじくっております。

士郎は又もや蚊帳の外、やることないので仕方なく断熱煉瓦を削って電熱炉をこさえ細いガラス管加熱し延伸する窯をこさえました。何しろ士郎は窯業専門家の筈ですから2人に負けじと技を披露します。ガラスを溶かすには熱量が低いこの方法は飛んだマヌケで全く役に立たず2人の「笑いもん」になりました。ひどくいじけました。

作業に入る前土海の要望を聞いてエアー作動の部材を購入しております。

エアーシリンダー、ソレノイド、タイマー、リレー等です。生まれて初めて接する「魔法の部品」に何だか気持ちが高揚しました。

卒業後本当はやりたかった技術屋の道です。さてそれらの部品が「変な奴」藤本の組み上げるアングルの架台に組み込まれて装置らしきものが姿を現します。  リレーボックスから夥しい電線が装置の各部に接続されました。

「大丈夫動くのだろうか?」固唾を呑んで土海の「よし!」と発する言葉を待ちます。

土海がスイッチを入れます。

ガチャガチャ騒音を発しながら直に装置の動きが停まりました。それから待つこと1時間。再開するが結果は同じです。「寡黙の男」は又もやブルーシートの上で回路図を見直しては考え込みます。それも去年のカレンダーの裏面に鉛筆で書かれたものです。

今ならシーケンサーというマイコンが普及しているから回路の組み込みも楽だが当時はタイマーとリレーでシリンダーを動かすので装置を上手く作動させるのが難しい。

結局そ日は諦めて翌日の日曜日再開することになりました。

土海独り悪戦苦闘、午後になって「よし」と一言寡黙の男。                              スイッチが入りました。

2mの細いガラス管の端をチャックがつまみ2cm引き出す。ガスバーナーの火口がガラス管の下に来て2秒ガラス管を加熱、火口が戻ると左側のチャックはガラス管を固定し右側のチャックが2cm右に進む。すると赤熱したガラス管が伸びて細い首になる。今度は左チャックが開き右チャックが3cm右に進んで火口は5秒留まりガラス管を焼き切る。すると右チャックが開いて首が繋がった2個のアンプルが下に落ちる。

この動作の繰り返えしでみるみるアンプルが出来上がって行くではありませんか。

人生で滅多に味わえない感動がそこにありました。

畳に敷かれた皺くちゃのブルーシートの部屋、それは士郎にとっての桃源郷に映ります。

「変な奴」が両手を左右に伸ばしながら部屋をうろついていたのはパートの手作業を装置にイメージしていたのでした。藤本は士郎が切り出すアングルを実に器用に組み上げて部材を組込み装置に仕上げております。

「参った参った」土海と藤本この二人、凄いやつだった。

これで会社は何とかなるだろう。一生二人を大切にしなければとその光景で思ったものです。それからは士郎も面白くなって装置の開発を手掛けます。

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