青山功夫の話(その2)

常宿は芝公園の中の小さな山要荘という安旅館にしました。使用人の婆さんが親切で中洲を気に入っていつでも泊めてくれます。

東京営業所の名刺も出来ました。事務所で最初に手掛けたのは光るイヤリングの開発です。釣具以外に営業の柱が必要です。バルジンの取引先に頼んだら早速12種類もの各種デザインのシリーズが出来上がりました。何と便利な間借り先でしょう。新しい商標も必要です。結局「STARLITE」を玩具ノベルティ向けの名前としました。

ある時青山先生は背を向けて東京理科大学で英文学の講義の準備中でした。綺麗なチーコさんが「そうお。中洲さんアメリカに独りで交渉に行くの。じゃあ英語喋れるんだ。凄いね。青山は英文学者のくせに全然喋れないのよ」背中に目があるのか青山先生「中洲くん。Undertakerって何だったっけ」試して来たのでしょう。「葬儀屋でしょう。スティーブンソンの宝島の初めに出ますね」たまたま思い出して答えたら何だか白けた空気になりました。チーコさんを挟んで青山との対決も始まるようです。いや中洲は既に光るイヤリングの商品開発で理屈過多の青山に違いを見せて挑戦していたのです。

そんな中で中洲は寄らば大樹の陰、ここは世界に先駆けて化学発光原液を権利者である米国ACCと米国政府から獲得しようと企みました。分かっているのはニュージャージー州ウェイン市にある米国ACC社の住所と電話番号だけです。日本で言えば旭化成クラスの巨大化学会社に紹介もなしにどうやって乗り込むかです。 

一つ耳寄りの情報が入りました。ロスにハリウッドパワーという女性社長の会社がサイリュームの光るロープを売り出したというのです。そのロスの住所を聞き出し出来たばかりのスターライトイヤリング12個セットをプレゼントとして送りつけました。女社長のジュディからのお礼状には「ミニ発光体の開発成功おめでとう」とあります。これも中洲流営業の一つで「新製品贈り付け作戦」です。案外時間が経っても効果がありますから覚えておいてください。

折しも福岡県が県内の中小企業にシカゴでのギフトショー共同出展を募って来ました。これに中洲は閃きを感じ、取り敢えずこれを利用することにしたのです。出来たばかりの光るイヤリングとケミホタルのサンプルの輸出も全て県がやってくれました。他社のカタログの外国人モデルの写真の耳に光るイヤリングを付けて写真に撮ってStarlite Earingなるインチキチラシも同梱しました。

化学発光を取り巻く諸般の事情に明るくなってきた青山先生どういう訳か中洲の米国行きに異を唱え出したのです。「小型化は立派な発明だ。米国におもねる事はない」と。全てに純粋思想の青山は揉み手を擦っての商売が全く肌に合わないようです。早くも中洲と青山との間に不穏な空気が漂い始めての渡米決行でした。

シカゴの見本市開催日よりも4日早く米国に渡りました。機内でダメもとでロスのハリウッドパワーを手始めに料理することにしました。飛行機の中継地アンカレッジ空港の公衆電話で番号を調べアポイントを取ることにしました。25セント硬貨がドンドン減る間に用件を伝えるのに汗だくです。

皆さまお分かりのように中洲の辞書には用意周到なる単語は有りません。兎に角出たとこ勝負です。飛行機が出発して作戦を考え始めました。中洲の英会話なんて本当にいい加減なモノです。喋るのは頭で英作文して相手が分かればOK。聞く方は相手の単語2、3個で相手の意図や状況を推測するのですから大抵的外れです。今回もジュディは大韓航空で渡米して来るから中洲を韓国人と思っていたのです。

兎に角ロスに着いたらハリウッドパワーを訪問する事。そしてシカゴのギフトショーに出展する事最後にACCに乗り込んで原液供給交渉を始める事に筋書きが決まりました。

大韓航空機は巨大なロサンゼルス空港の隅の汚いターミナルに到着します。

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