痛風の話(その2)

ウイスキーのつまみならチョコレートがいい。それもゴディバのオレンジピールが最高。しかし何しろ高いし最近姿を見ません。

だったら暇を見つけて自分でこさえてみよう。(と言ってもラオポの手を借りるわけだが) 甘く煮込んだ甘夏の皮をしっかり天日干ししてビッターチョコで枯れ枝姿に包みこむのです。干し柿や干しイチジク、乾いたチェリージャムの細切りなんかもイケるんじゃないかな。「どう? 中洲がこさえたチョコレート」なんて言って美女に差し出したいです。

しかしスタンドバーの止まり木に一人じゃなく連れがいたら酒のつまみは何より洒落た噺が肝心カナメ。

タリスカーがメジャーなウイスキーだって知ったのは最近のこと。日経朝刊の一面にエッセイ付きのタリスカーの広告。皆様も目にされるでしょう。エッセイストで著名なバーテンダーでしかも超ダンディな島地勝彦さんが毎回お酒のストーリーを傍らに登場します。まあ格好のいいこと。しかし日本人の年取って格好いいのって大抵チョイワル親父の匂いがしませんか。それに島地さんの話はとても洒落てますが自称インテリ女性が直ぐに傾きそうな内容ばかりです。

その島地さんをして「参った」と言わしめる対極の話し手は我らがアイザック・アシモフでしょう。博士は自分のことを研究室で若い娘を追い回す助平親父と自嘲してましたが恐らく歴史上一番博学でユーモアに富んだ科学者でした。

そのアシモフが夢見る究極のダンディズムはなんだろうってタリクカーをチビチビやりながら俯瞰しますと「黒後家蜘蛛の会」という推理小説のシリーズで登場する老給仕のヘンリーに行き着きました。場所はマンハッタンのスタンドバー、月に一度の6人の男達の飲み会です。ヘンリーはいつも謙虚で礼儀正しく物静かな振舞いですが恐ろしく論理的な思考力の持ち主なのです。カウンターの内で静かにタコと小海老のアヒージョなんかをこさえながら6人の学者達の話に耳を傾けております。論議に答が見つからず袋小路に入ってしまうとヘンリーに意見を求められる番がまいります。そして毎度同じセリフ。「私などの出る幕じゃありませんが、調理の合間にお話をお伺いしながら思ったのですが」と前置きして見事に難問を解決します。アシモフが面白いのは普通の推理モノや科学モノと違って医学、数学、物理、化学、天文学の教材をミステリー仕立てで分かりやすく話してくれるからです。

博覧強記の男と言えば日本人なら南方熊楠、しかしこの手は表向き大抵変人と言うのが通り相場でしょうがアシモフさんはにこやかに科学がどんなに面白いかを語り続けます。しかも若い娘達が大好きです。しかし冗長家であるのがアシモフさん自身の悩み。それで彼の理想像としてヘンリーという寡黙なキャラクターをこさえました。ヘンリーこそアシモフが夢見る「いい男」なんでしょうね。

そこで今晩はアシモフに登場して貰って傍らの架空の妙齢の「いい女性」に話をして貰いましょう。島地勝彦さんと違ってこんな風に。

・・・という訳で上手い具合に痛風免れたんだけどそもそも痛風というのはねえお嬢さん。(アシモフはこれから話が長くなる) 46億年前に地球が誕生したでしょう。そして38億年前に海が出来て生物が現れてそれから33億年間も海と淡水の中で生き物は静かに進化を続けていきます。それからやっと5億年前に脊椎動物が4.6億年前に無顎魚類が生まれて自由に水中を動き回れるようになりました。3.5億年前に蛙などの両生類が現れて陸上生活の快適さを覚え3億年前から爬虫類が陸上を闊歩します。鳥類と哺乳類が生まれのが2億年前そしてヒトがこの地球に出現したのはついこの前15万年前の事です。

その進化の過程は大抵化石と炭素年代測定で形態学的な人間への長い道のりを正確に辿ることが出来ます。だが血液や筋肉など身体の組織の変化は化石には残されていません。そこでアシモフの専門の生化学で生物の種の違いによる生化学的進化の道を辿ります。例えば各生物の身体の細胞を包む液体の成分の類似性から微生物が泳いでいた38億年前の原始の海の成分を推測できるのです。

さて今夜の主題は痛風の話です。これは生物種にとって存続に必須の排泄作業の進化から生じました。生物は捕食すると窒素成分がアンモニアに変化しますがこれは猛毒だから血液に入る前にどんどん身体から洗い流す必要があります。だから三葉虫などの節足動物は河口近くの淡水中で脊椎動物へと進化しました。海水はイオン濃度が淡水より1000倍も高いのでアンモニアを排出しにくい。そこでアンモニアを低毒性の尿素に変えて小便として排出する術を編み出したのが魚類ではサメ、次に蛙などの両生類や爬虫類です。海に戻った魚達はアンモニア排出に苦労します。2億年前に出現した鳥類と哺乳類は水の少ない環境で生存するためにアンモニアを尿素次に尿酸という毒性が少ないが分子量が大きくなって従って水に溶けにくい化学物質を身体に溜め込む術を取得します。鳥類達は卵生の為に尿素を尿酸という固形にして排出。猿と人間を除く哺乳類は尿酸で痛風が起こるのを防ぐために体内にウリカーゼという酵素を作って尿酸よりもずっと水に溶けやすいアラントインに変換する術を編み出しました。それで猿や人間のように痛風に悩まされません。じゃあ何故猿と人間は血液の中に危険な尿酸を蓄える道を選んだのか。生物は全て退化する道を選ぶ筈がない。そこで秘密を探った結果尿酸はプリン体でコーヒーカフェインと同じ脳神経を活性化することが分かったのです。

お分かりですかお嬢さん?猿とヒトという種族は尿酸の痛風の痛みよりも思考力増強の必要性を選択して尿酸を血中に残す道を選んだのです。だから尿酸も大切な成分なのです。

な~るほど昨年12月はブログ書く時間もないほど商品開発で忙しく脳味噌が活性剤をジャンジャン要求したので尿酸をアルコールに溶かして運び込んだわけか。それで尿酸値が急上昇したのですね。これからも尿酸とアルコールと仲良く付き合って人生を楽しみます。

巷の飽きるほどの「好いた惚れた」の話よりもアシモフの方がずっと面白いですよね皆さん。

そのアシモフさんの話を正確には記述できておりません。間違いはお許しください。早川書房アシモフの科学エッセイの中の「たった一兆」ウニと人間から尿酸の記述を引用しました。時間があれば是非お読みください。

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